朝音




ある庄屋の奉公人に、朝音という娘がいた。
早起きで働き者で動物によく好かれ、騒がしい鶏たちも彼女の前では素直なものだった。

そんな彼女だが月に一度急に休むことがあった。
体調不良ということで、皆はよく働くからだろうと労いその背を見送った。

ところがそれが毎月毎月同じ頃と分かると、一人の下女が仮病ではないかと問い詰めた。
里に帰るわけでもなく、日付を決めて男と会っているのではないか。
下女の言葉を娘は否定し、申し出る時は本当に体調が悪そうなのだと弁護する者も多く、その場はひとまず収まった。

しかし次の月、やはり体調不良で休みをもらった朝音を、その下女はこそりと見張っていた。
人目を気にするように裏庭へいく彼女をそれ見たことかと追いかけて、足を止めた。

朝音は茂みに踞り苦しげな声を挙げると、ぽろぽろと黄金の卵を生んだ。
卵がひび割れると中から黄金に輝く鳥が現れ、きらきら輝きながら飛び去っていく。
思わず叫べば朝音も下女に気付いて悲鳴をあげた。
「ああ、見られてしまった、見られてしまった」
顔を覆うその手は瞬く間に黄金の羽毛に包まれて、朝音の姿は黄金の鳥に変化した。
そしてばさりと羽ばたいて、何処の空へと飛び去ってしまった。
あまりの眩さに下女は失明し、庄屋はたちまち没落した。

この日以来村近郊から一切の鳥が姿を消したという。





「これが、その卵だそうだ」
カワリは藤籠の中で綿に包まれたそれを熊野に見せた。
赤ん坊の様に収まる卵は鶏のものより僅かに大きく、光の加減で確かに金色に見えなくもない。
見えなくもない、が。
「…先生、本物だと思いますか?」
「さぁ?卵は割ってみるまで中身を知ることは出来ないし、割ってしまえば元通りには出来ないからねぇ」
言いながらふと柱時計に目をやって、カワリはぽんと手を打った。
「もう昼時だねぇ熊野君。そうだ、これでおむれつを作ってくれないか?分かるかい、おむれつ。西洋の玉子焼きだよ」
「知ってますが…これで、ですか?」
「うん」
にんまりとカワリは頷き、熊野は顔を引き攣らせる。
「…変な鳥かはたまた娘が出てきたらどうするんですか…」
「おや、さっきの話を信じているのかい?」
「そういうわけでは…!」
「鳥や娘が出たのなら、君、父親になって大事に育ててやりなさい。それともやはり黄身と白身が出たのなら、」
ボーン、と柱時計が鳴った。
「僕に美味しいおむれつを作ってくれたまえ」